人工衛星の利用

人工衛星による初期の測位観測

1957年(昭和32)10月にソビエト連邦(現・ロシア)が初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げると、その4ヶ月後に米国は「エクスプローラー1号」を打ち上げ、軍事だけでなく宇宙科学観測にも人工衛星が利用されはじめました。

米国では、これらに先立つヴァンガード計画の一環として、衛星を光学的に追跡(トラッキング)するために、ベーカー・ナン カメラが開発され、1957~1958年の国際地球観測年に利用されました。このカメラは反射屈折光学系(シュミット式)の写真撮影専用の望遠鏡で、ベーカー(James Gilbert Baker、1914~2005、米国の天文学者)とナン(Joseph Nunn、1905~1968、米国の光学技術者)により設計され、パーキンエルマー社(Perkin-Elmer)で生産されました。望遠鏡底部の主鏡は直径75センチメートル、最上部の対物レンズは3枚組み合わせの非球面レンズで直径50センチメートルあり、鏡筒の中ほどの焦点面に撮影用フィルムがセットされます。鏡筒を載せる架台には方位と高度を変える2組の回転軸と、衛星を高速で追尾できるよう第3の回転軸が高度軸に直角についています。また本体とはべつに観測用時計があり撮影時につかわれます。この望遠鏡は1957年(昭和32)、スミソニアン天体物理観測所によって人工衛星追跡のため、世界12ヶ所に配置、うち1台は東京天文台三鷹観測所に設置され、1968年(昭和43)に堂平(どうだいら)観測所に移設、現在は役目を終え、姫路市青山の姫路科学館で展示されています。1958年(昭和33)に米国が打ち上た「ヴァンガード1号」衛星の軌道を写真や受信電波を解析することで、地球は完全な回転楕円体ではなく、南北で非対称な形状をしていることも明らかになりました。

人工衛星の軌道を正確に求められると、地表での遠隔地点の相互位置を精密に決定する手段にもなります。しかし写真撮影の際、数秒の不可避の角度誤差が生じます。そこで写真撮影と併用して衛星に発光機能や信号送出機能をもたせたり、地上からレーザーをつかって衛星までの距離を測定して測距精度を高めるようになりました。1962年(昭和37)には米国は初めて発光機能と信号送信機能をもった測地衛星ANNAを打ち上げ、日本でも大口径のカメラでとらえ、八丈島、鳥島の位置決定に成功しました。

NNSS測量

1961年(昭和36)に米国海軍による人工衛星航法システムNNSS(Navy Navigation Satellite System)が運用開始され、人工衛星によって地球上の位置を求めること(衛星測位)が可能になりました。NNSSは飛行位置が明らかな人工衛星から発信される電波を受信して、ドップラー効果による周波数変化から、一定の時間間隔で人工衛星と、受信点との距離を求めて位置を測定するシステムです。ドップラー効果は電波の発生源(衛星)と観測地点(地球)との相対的な速度によって、電波の周波数が実際とは異なる値として観測される現象です。

国土地理院では離島の位置決定、国内測地網の規正、ジオイド高の検出を行うために、1976年(昭和51)から1990年(平成2)頃にGPS測量へ移行するまで利用されました。NNSSは観測に時間を要し、リアルタイムの測位が不可能なため普及は限られていました。次世代の衛星測位はGPSになります。

GPS測量(GNSS測量)

衛星測位システム」は人工衛星が電波で送る位置と時刻の情報を利用して、地上の受信装置によって現在位置を計測する仕組みです。GPS (Global Positioning System)は全地球測位システム、人工衛星は測位衛星といわれ、米国の国防総省によって開発、運用がはじめられました。地球の重心を焦点として、楕円軌道を描きながら地球を周回するGPS衛星から発信される信号を利用することにより、地球上のどの地点でも、正確な位置を求めることができます。GPS衛星は高度2万キロメートル(地球直径の約1.5倍)の軌道上に24基ありますが、6軌道の各軌道に4基の衛星があり、11時間58分2秒(2分の1恒星日に相当)の周期で周回しています。恒星日は子午線上方を通過する恒星が翌日に再出現する時間ですが、地球が公転しているため太陽時間より短くなります。人工衛星の軌道上の速さは秒速約4キロメートルになります。

GPSは、もともと軍事用ですが、地図作成のほかカーナビゲーションやマリンナビゲーションなど、またダムやトンネル、道路などの大型構築物の変位計測にも利用されています。国土地理院では1990年(平成2)年頃からGPS測量を導入していますが、近年は米国以外の測位衛星も打上られ、これらを利用した測量の総称としてGNSS測量(Global Navigation Satellite System)と呼ばれます。「GNSS」の用語は一般には、まだ浸透していませんので、ここでは従来どおり「GPS」もつかいます。

GPS(GNSS)衛星は重力と遠心力のバランスがとれた位置を周回しています。地球上での重力は各所で異なるので、地表上から見たGPS衛星の高度は各所でバラバラになります。GPS衛星の軌道情報には地球の重力場の不均等、上層大気の抵抗、太陽の輻射圧、月、太陽、惑星の引力による摂動(楕円軌道からずれる動き)の補正係数もあります。

GPS衛星から発信される信号は精度の高い時刻と衛星の位置情報であり、L1帯(1.5754GHz)とL2帯(1.2276GHz)のマイクロ波で送信されます。発信時刻と受信時刻の差から衛星と受信位置間の距離がわかるので、原理的には3基の衛星からの情報を受信できれば、受信位置の座標(x,y,z)の決定は可能です。ところが、実際には時刻に誤差があることや、電離層による電波遅延の影響があるため、衛星と受信位置間の距離は誤差を含む疑似距離(シュードレンジ、pseudorange)になっています。

衛星には原子時計が搭載されており時刻はきわめて正確であり、また地上からの指令により校正も可能です。一般相対性理論によると、時計の刻みは時計の置かれた場所の位置エネルギーによって、わずかに変わります。同じ時計でも地上に置いた場合と、はるか上空にある場合で時の刻み方が変わります。地表の2万キロメートル上空をまわる人工衛星に積まれた原子時計は一年間に数秒速くなります。この効果をあらかじめ考慮しており、地上で動作するときの周波数を低めに調整してあります。この調整により打ちあげられた軌道上の時計と地球上の時計の刻みが一致します。

しかし受信機側の時刻は通常のクォーツ時計程度の精度しかありません。そこでもう1基(4基目)の衛星からも受信して衛星と受信位置との関係式を増やし、正確な受信時刻の補正値を知ることが必要となります。あらかじめ3基の衛星で得られた擬似距離から仮の位置が決まります。ついで4基目の衛星の電波が仮の位置まで届く時間は衛星の位置(軌道情報)が分っているので計算できます。したがって実際に測定した受信機の時計と比較すれば誤差が分ります。未知数が座標(x,y,z)、時刻tの4つですから4基の衛星からの電波伝播時間をもとにして解を得ることになります。実際はそれぞれの測定誤差があるため4基以上の衛星から受信して、最も確かな値を得るようになっています。GPS測量は宇宙空間と地上を結ぶ立体的な三角測量です。

いまでは位置情報を得るには、三角測量にかわりGPS測量が主流になっています。宇宙にあるGPS衛星を三角点とみなすわけです。基準点測量の場合は、上空視界が水平線から上空方向に15度よりも広くひらけていることが必要です。上空視界を確保するため、アンテナポールをつかってて高い位置で受信することもあります。ナビゲーションでは「単独測位法」(または「一点測位法」)といい、1台の受信機とアンテナを使用して位置をもとめますが、測量では「相対測位法」といい、複数の既知点(普通は3~4ヶ所)と新設点(求点)に設置したGPS受信機で、同時にそれぞれ単独測位法で測量し、既知点と新設点の基線ベクトル(距離と方向)を求める「デファレンシャルGPS方式」や、一地点で複数台の受信機をつかう「搬送波位相方式」(または「干渉測位方式」)があります。搬送波位相方式にもスタティック測位、キネマティック測位、リアルタイム・キネマティック測位(RTK:Real Time Kinematic、電子基準点の観測データを補正値とするをネットワーク型)などがあります。いずれも観測地点では、すぐに精密な位置情報は得られませんが、計算処理により衛星と受信機双方の時計誤差を相殺でき、精度の高い測量成果が得られます。近年は高精度単独測位方式(PPP:Precise Point Positioning)も採用されつつあります。PPP方式はRTK方式と異なり、近接の既知点のデータを利用せずに、搬送波位相で数センチメートルの精度を達成する方式です。精密に決定された衛星軌道や時計情報によって2周波で観測値を作り出して測位を行います。受信機側のソフトの比重が大きくなる欠点があります。

GPS測量の応用例としてカーナビゲーションがあります。自動車の位置を知り目的地へ案内するカーナビゲーションはGPS測量と詳しい道路状態を含む地図データを組み合わせたものです。従来はGPS受信機に物体の角度、角速度や角加速度を検出できるジャイロスコープを併用して地図データから道路位置を選択するというマップマッチングを採用していました。近年は自動車の移動局と電子基準点が設置された基地局双方で受信して基線ベクトルを求めるデファレンシャルGPS方式によってマップマッチングなしでも精度の高い位置が得られるようになっています。

GPS測量では、まず地球の重心を原点0にとった「地心直交座標系」で位置ぎめをします。地心直交座標系は、原点0で互いに直交するX・Y・Zの3つの軸をもつ座標系のことで、X軸は経度0度の子午線と赤道の交点をとおり、Y軸は東経90度の子午線と赤道の交点をとおり、Z軸は北極点をそれぞれとおります。GPS測量ではX、Y、Zの位置を測って数学的に整った回転楕円体の上の高さを計算します。これを「楕円体高」いいます。GPS測量では海面やジオイド(等重力面)とは無関係に高さを計算するので、ジオイドから測った「標高」は求まりません。標高を求めるためにはGPS測量で得られた楕円体高からジオイドマップをもとにしたジオイド高を差し引いた値としなければなりません。

GPS測量によって正確に位置を求めることができるようになりましたが、日本は複数のプレートの動きにより複雑な地殻変動が起こっています。年間数センチメートルに達するところもあります。高い精度で求められた三角点などの基準点も、この地殻変動の影響により実際の地球上の位置と測量成果の示す座標値が時間とともにずれ、その精度が劣化していると考えられています。地殻変動のほか日照時間、気象の変化、上空電離層の乱れ、周囲の地物による受信障害なども精度に影響します。新たなGPS測量で、既に求められた座標値を使用する場合は観測時期を統一して地殻変動などによる歪みの影響を補正しなければなりません。これをセミ・ダイナミック補正といいます。

セミ・ダイナミック補正では「測地成果2011」の基準日を測量成果の「元期」(がんき,reference epoch)、観測を行った時点を「今期」(こんき、current epoch)、時間とともに変化する今期の座標値を「日々の座標値」(daily coordinates)と呼びます。2012年(平成24)時点で公開されている日本の「測量成果2011」での元期は東日本では2011年(平成23)5月24日、西日本では1997年(平成9)1月1日になっています。国土地理院は元期の基準日に統一して処理する補正ソフトを提供しています。

新点(未知点)の位置を求める場合、まず既知点の測量成果(元期座標値)を補正して今期座標値を求めます。ついで既知点の今期座標値を固定して網平均計算を行います。このあと今期の新点位置情報を補正し元期に戻し元期の新点位置情報を求めます。

電子基準点

国土地理院の電子基準点は精度の高い基準点の構築と広域的な地殻変動(地球の歪み)の検出を目的に設置されたGPS連続観測点で、三角点と同様に水平位置の基準として整備されており、国家基準点になっています。国土地理院のGPS連続観測システム(GEONET GPS Earth Observation Network System)は1996年(平成8)から運用開始されました。GEONETはGPS衛星からの電波を地上で連続して受信できる各地の電子基準点>で構成されています。GEONETは4基以上の衛星を複数の電子基準点で同時に観測し、各々の行路差から電子基準点間の相対的な位置関係(基線ベクトルといいます)をもとめることができます。運用当初は610点ありましたが、現在は全国に約20キロメートル(東海、南関東は約10キロメートル)間隔で1300点設置されており、測地網を構成しています。観測データはリアルタイムに通信回線で、つくば市にある国土地理院の測地観測センターに集められ、電子基準点の位置の変動が監視され、地震や火山活動の調査研究に活用されています。異常データが観測されたときには報道されることもありますが、地震予知は気象庁などのデータも含め地震予知連絡会で検討されます。また観測データを観測点や必要とする地点へインターネットを介してリアルタイムデータの提供も行われ、2005年(平成17)には公共測量や民間の測量にもリアルタイム・キネマティック測位(RTK)が活用されています。日本のようにGPS連続観測システムを国家として運用している国は米国、オーストラリア、ニュージーランド、インドネシアなどがあります。

近年は電子基準点のみを既知点とした公共測量も行われています。GPS測量では、最低2点の観測点で同時に観測する必要があり、その片方には座標が求められている基準点標石などを既知点として、GPS測量機を設置します。しかし、既知点として電子基準点をつかうと作業や測量機器の配置を簡略でき効率化がはかられます。

電子基準点は一見するとゴミの焼却炉のように見えますが、高さ5メートルのステンレス製の柱(ピラー)で、最上部はGPS衛星からの電波を受信するアンテナになっており、レドーム(Radome)といわれるポリカーボネイトなどの保護カバーで覆われています。柱下部には受信機(写真の黄色いTrimble 社製のGPS受信機と同等品)と通信用機器が格納されています。各電子基準点には固有の名称(例・京都左京2)と番号(例・960643)がついています。アンテナ基部には電子基準点付属標といわれる直径16センチメートルのステンレス金属標が埋設してあり将来、他の方法による測量にも利用できるようになっています。この付属標の番号は電子基準点本体の番号の末尾にAをつけたものです。(例・960643A)電子基準点付属標は2007年(平成19)からその一部が二等水準点の扱いになりました。近傍の水準点から付属標に直接水準測量による取り付け測量を行っています。その結果、標高値は二等水準点相当のミリメートル単位になっています。直接測量ができない電子基準点の標高は楕円体高からジオイドマップを用いて算出されています。電子基準点の高さの測量成果は標高とともに楕円体高も公表されています。

2005年(平成17)末時点での電子基準点の位置は最北は北海道「稚内3」(稚内市宗谷岬)、最東は東京都「南鳥島」(東京都小笠原村)、最南は東京都「沖ノ鳥島」(東京都小笠原村)、最西は沖縄県「与那国」(沖縄県与那国町)になっています。また最高点にあるのは「富士山」で2002年(平成14)に設置されましたが、その標高は3777.5メートルですぐ近くの二等三角点「富士山」の3775.6メートルよりも電子基準点の柱(ピラー)の長さ分だけ高くなっています。基準点としては日本最高です。もともと富士山には三角点よりも高い3776メートルの最高地点がありました。

三浦市油壷の東京大学臨海実験所構内に設置された電子基準点「三浦2」は気象観測装置が附属しています。受信アンテナの柱(ピラー)の最上部の白い丸い部分はアンテナ本体を保護する電波の透過率が高いプラスチックのカバーでレドーム(Radome)といいます。その下にある装置は大気の湿潤状態による大気遅延誤差を正確にもとめるための気象観測装置で気温、気圧、湿度などを測定してGPSデータとともに国土地理院のセンターに送られます。しかし現時点では気象測定データによる補正は行われていないようです。このような気象観測装置のついている電子基準点は全国に30ヶ所程度しかありません。

GPS固定点

電子基準点とは別に基準点としてGPS固定点というのがあります。どちらもGPS衛星からの電波を受信する施設です。電子基準点は精度の高い水平位置の基準や地殻変動監視が主目的ですが、GPS固定点は地籍調査のための基準点とされ、近傍の四等三角点の偏心点となっており、地方自治体からの要望により国土地理院が設置しており、全国に約100点あります。これにより地籍測量を実施する地方自治体などでは、既知点となる三角点へ出向き、測量機器を設置し観測をする必要がなくなり、作業効率が向上します。GPS固定点の形状は電子基準点よりも高さが低く、屋上に設置される場合が多いようです。またアンテナ以外の受信機など通信機器は電子基準点の場合は柱(ピラー)内部に格納されていますが、GPS固定点の場合は建物内部に設置されています。

高精度比高観測点

電子基準点やGPS固定点のほかに2007年(平成19)現在、GPSを利用する観測点として「地殻変動観測点」(例・長野県上田市)「高精度比高観測点」(例・静岡県御前崎)、「GPS機動連続観測点」(例:宮城県牡鹿半島)などが国土地理院により設置されています。移動可能なGPS連続観測装置もありこれらは測量法に定められている基準点(三角点、電子基準点などの国家基準点)にはなっていませんが、GPS衛星から受信するデータは同じです。

東海地方では地殻変動の監視のため電子基準点とおなじ装置が掛川から御前崎までの間に25点あり「高精度比高観測点」と呼ばれています。右の写真は掛川市総合病院駐車場にある高精度比高観測点(電子基準点)です。高さ2.5メートルの八角形のステンレス製の装置で内部にはアンテナ、送受信機などがあります。「No.98H024 建設省国土地理院」のプレートがあり地面には直径16センチメートルの付属標があります。この高精度比高観測点の近く、掛川市杉谷には1996年(平成8)に設置された国土地理院東海機動観測基地があります。東海地方で予想される地震について情報収集と防災対策のための観測を行っています。

地殻変動観測点

上田市下之条にある千曲川河畔の上田古戦場公園の北東端に見られます。ピラーには「地殻変動観測点(GPS地殻変動観測施設)No.00R017」の表示があり、地上高さは約3メートルです。ピラーの下には直径8センチメートルの付属標があります。電子基準点と同形式で受信データも同じですが、目的や維持の都合上、電子基準点と区分しているようです。

この設備は2005年(平成17)から(試験的には2002年頃から)「糸魚川・静岡間の構造線断層帯における重点的調査観測」のため運用されている施設で長野県には多数設置されていますが、同様の地殻変動観測点は宮城県や北海道などにもあります。

地殻変動観測点 (受信機なし)

地殻変動観測点はGPS受信機を常設しない定点観測の標識もあります。志賀高原渋峠の南700メートルの地点に日本国道最高地点の石碑がありますが、そのすぐ北に二等水準点、さらに北に地殻変動観測点「渋峠」があります。この位置に可搬型のGPS受信機を設置して測定をします。一辺12、地上高さ20センチメートルのコンクリート角柱で上面には直径8センチメートルの金属標があり「地殻変動観測点 + GPS 1101 建設省国土地理院」の刻字があります。

可搬型連続観測装置

移動可能なGPS連続観測装置は火山活動が活発な地域で用いられます。この装置はレグモス(REGMOS=Remote GPS Monitoring System)と呼ばれ、商用電源や通信が利用できないところでも連続してGPS測量が可能な太陽光発電設備や衛星通信用のアンテナが装備されています。国土地理院本院に転送された観測データは解析され火山変動の基礎資料となります。写真の中央上部の白い球体内部に受信アンテナが入っており右上の白い四角の板はデータを転送する衛星通信用アンテナ、装置本体の側面は太陽光発電パネルを貼り付け、電源としています。

準天頂衛星システム

現在、日本では新しい衛星測位方式として、準天頂衛星システムQZSS(Quasi-Zenith Satellite System)があり、日本版のGPS全地球測位システムといわれます。QZSSは日本の真上にあたる天頂付近で常時、少なくとも1基の衛星が見えるように、複数の軌道面に、それぞれ配置された衛星を組合せて利用する衛星測位方式です。衛星の軌道は、高度約3万2千~3万9千キロメートルに「準天頂軌道」と呼ぶ楕円軌道で、赤道面から見た軌道面は40~50度の傾き(軌道傾斜角)があります。地球の自転と同じ周期、約24時間で地球を一周します。衛星が常に天頂方向にあるため、山や高層ビルなどに影響されず、米国のGPSでは信号が届きにくい場所でも測位が可能で、全国のほぼ100パーセントをカバーできる高精度の方式です。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した最初の準天頂衛星「みちびき1号機」QZS-1は、2010年(平成22)9月に打ち上げられ、2017年(平成29)6月には2号機、同8月に3号機、同10月に4号機が打ち上げられ、2018年(平成30)11月から4機体制での運用がはじまりました。2号機までの衛星軌道は日本とオーストラリアの上空を8の字を描いて周回していますが、3号機は以前の衛星軌道と異なり、赤道上空の高度3万6千キロメートルを回る静止軌道になります。地球の自転と同じ速度で周回するため、地上からは止まったように見えます。また3号機は災害時に避難所情報を衛星経由で管制局に送信収集する「衛星安否確認サービス」Q-ANPI用のS帯(バンド)アンテナが付加されています。1号機の設計寿命は10年で老朽化が進んだため、2021年(令和3)10月に後継機が打ち上げられました。日本の4基体制では常時、1基が日本上空にありますが、米国のGPS信号を補完することによって測位しています。2025年(令和7)2月には5号機に先立ち6号機が打ち上げられました。6号機は3号機とおなじ赤道上の静止軌道にあります。同年12月予定された5号機は軌道投入に失敗、2026年(令和8)8月に打ち上げられた7号機は赤道上からわずかずれた準静止軌道になります。現在は1号後継機~4号機と6、7号機の6基ですが、あと1基で7基体制になると「みちびき」単独での測位が可能となります。さらに2030年代には11基体制でバックアップ機能を強化して、安定した測位が可能なよう計画されています。

送信信号はGPSと同様のL1帯とL2帯ですが、このほかL5帯(1.1765GHz)があります。地上で作成した測位補正情報を衛星の放送機能(LEX信号L-band experiment)を利用して配信し測量の効率をはかることもできます。これまでのGPSによる単独測位では数メートル~10メートル程度の精度ですが、QZSSを利用し既存のGPSを併用すると、測位の精度は6センチメートル~1メートル程度になります。さらに全国に配置された電子基準点で受けた情報をもとに「センチメータ級測位補強情報」を作成して、地上の基地局を経由して準天頂衛星に送り込むことで、高精度な衛星測位を補強しています。この情報は従来のGPSから配信している信号とは異なるため、専用の受信機が必要になりますが、測量のほか、建設機械、農業機械の高精度操作などの利用が想定されています。

米国GPS以外の測位衛星

将来、米国のGPSの利用が困難になることも踏まえ、次世代の全世界的衛星測位システムGNSS(Global Navigation Satellite System)の構築が課題となっています。日本のQZSS(4基)もGNSSの機能をもっています。日本以外の国でも2018年3月現在、欧州連合EUのGalileo(26基)、ロシアのGLONASS(27基)、中国のBeidou(北斗、49基)、インドのIRNSS/NAVIC(7基)など米国のGPS(35基)と同様の測位衛星が開発されています。近年は米国のGPS以外の測位衛星も利用した測量の総称としてGNSS測量と呼ばれます。また複数のGNSSを併用する場合はマルチGNSSと呼ばれることもあります。衛星数が増え観測の可能時間や地域が拡大し測位精度の向上が期待できます。

ロシアのGLONASS(ロシア語で ГЛОНАСС)は1980年代後半から民間利用が可能になり2017年には26基の衛星が利用できることになりました。測位用の送信周波数はGPSと同様のL1帯とL2帯ですが、信号の構造である変調方式が異なります。GPSでは衛星ごとに異なる拡散コードを同一周波数の搬送波を変調して送信する符号分割多元接続方式CDMA(Code Division Multiple Access)を採用しています。一方GLONASSでは複数の搬送波を変調して送信する周波数分割多元接続方式FDMA(Frequency Division Multiple Access )を採用しています。この違いがあるため両種の衛星を同時に測位に利用する場合は調整が必要になりますが、将来はGLONASSもCDMA方式でも可能になることが計画されています。

GNSSを安定して運用し精度を高めるため、国際測地学協会(IAG International Association of Geodesy)では世界の関係機関が参加してGNSSの観測網の維持、データの流通、解析を行っています。日本では国土地理院、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、情報通信研究機構(NICT)が参加しています。

測地衛星

GPS(GNSS)測量では複数の測位衛星から送信される位置と時間情報を地球上で受信して、受信地点の位置を求めますが、これとはべつの手段により測地観測をするための測地衛星があります。衛星からレーダーによりマイクロ波やレーザーを地上に向け発射して、反射波の戻る時間をもとに、海面などの地点から衛星までの距離を算出するアルチメーター(Altimeter 高度計)や、逆に地上から発射したレーザー光線で衛星を追尾し、反射波の戻る時間から観測点から衛星までの距離を算出するSLR(Satellite Laser Ranging)というシステムです。たとえば海上保安庁では1976年(昭和51)頃から測地衛星「あじさい」を利用しています。アルチメーターやSLRは測地観測(海洋測地観測)のところで説明します。

これらの衛星は地形を観測することを目的としましたが、地球表面の状態を観測するため地球観測衛星があります。1972年(昭和47)から米国で資源衛星ランドサット(Landsat)が複数機、打ち上げられ、光学リモートセンシング技術による得られたデータを活用して、土地利用や環境調査に必要な画像を提供しており、国土地理院でも利用されました。

合成開口レーダー(干渉SAR)

測地衛星は地表面の詳細を調べるためにレーダーを搭載し、衛星から地球に向け電波を送信し、地表面からの反射波を受信します。特殊なレーダーとして合成開口レーダー(SAR:Synthetic Aperture Radar)が開発されました。使用する波長が長いマイクロ波は雲や雨粒などを透過するため、天候の影響をほとんど受けずに地表や海面の観測ができます。しかし、分解能は光学レンズに比べると大幅に劣ります。この欠点を補うには衛星に搭載するアンテナの直径を大きくする必要がありますが、実際に大きくすることは限度があり、衛星のアンテナが直線的に移動することを利用して解決したのが合成開口レーダーです。測地衛星が移動しながら電波を送受信しますが、小さな開口面で指向性にすぐれたアンテナによって、大きな開口を持ったアンテナと等価な画像が得られるように、データを合成するのが合成開口レーダーと呼ばれる技術です。

SARによる観測を地球上の数十キロメートル範囲の同じ地域に対して、2回以上行ったのちに画像解析により干渉による差をとると、地表面の動きを詳細に知ることができ、地震、火山活動や地盤沈下による地表の動きを宇宙から調べることができます。1994年(平成6)から国土地理院では干渉SAR(Interferometric SAR)技術への取り組みをはじめていますが、現在は研究開発の段階から実用の方向にあります。またSAR装置は人工衛星だけでなく航空機に搭載することも可能です。

地球観測衛星「だいち」

日本の代表的なSAR衛星は1992年(平成4)、宇宙開発事業団と関係省庁(科学技術庁、通商産業省)によって打ち上げられた「ふよう1号」(JERS-1)で、資源探査を主目的とし、植生の多い日本の国土に適したLバンドセンサーを搭載しました。Lバンドは極超短波(UHF)の帯域で、周波数0.5~1.5GHz、波長200~600ミリメートルの範囲で雲や雨粒などを透過できます。ふよう1号は当初の計画では2年間の運用予定でしたが、1998年(平成10)に運用停止しました。

2006年(平成18)1月には宇宙航空研究開発機構JAXA(Japan Aerospace Exploration Agency)によって「だいち」(ALOS-1)が打ち上げられました。ALOS(Advanced Land Observing Satellite)は地球観測衛星(陸域観測技術衛星とも)のことです。 世界最大級の人工衛星で軌道を少しずつずらしながら地球を周回し観測センサーにより陸地の状態を観測する機能を持っています。これによって地図作成、地域観測、災害状況把握、資源調査などに役立つことができます。全世界の二万五千分一地形図の作成も可能です。国土地理院では国内の火山地域、地盤沈下地域、地すべり地域の定常的な解析を実施しました。

「だいち」の観測機器として標高など地表の地形データを2.5メートルの分解能で読みとるパンクロマチック立体視センサー(PRISM)、土地の表面の状態や植生を10メートルの分解能で分かる高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2)、昼夜、天候にかかわらず陸地の観測が可能なフェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダー(PARSAR)の3種の地球観測センサを搭載しています。パンクロマチック画像は、白から黒までのグレースケールになりますが、高分解能で建物や森林等の地物の形状の判読に適しています。またPARSARのLバンドのマイクロ波は森林地帯でも樹木を通過できるので地表面の観測も可能です。

衛星本体の大きさは6.2×3.5×4.0メートル、太陽電池は3.1×22.2メートル、開口レーダーアンテナは8.9×3.1メートル、質量は約4トンあります。全体はカプトンという温度特性の優れた合成樹脂の裏にアルミニウムなどを蒸着した断熱材(サーマルブランケット)で覆われます。カプトンは厚さ10~20マイクロメートルと薄いもので、10~20枚も重ねますが、層間にダクロンというポリエステル繊維を入れます。衛星が軌道にのれば太陽熱にだけ耐えればよいので、日照時100℃程度、地球の影になった時マイナス100℃程度の耐熱効果がありロケット本体のような超耐熱材料ではありません。写真は筑波宇宙センター(つくば市)で撮影した展示品であり、断熱材は黄金色に光って見えます。銀色に見える部分は透明の高分子フィルムの裏にアルミニウムや銀の膜を付けたもので衛星内部の機器からの発熱を外に逃がします。実物のこの部分は展示品と異なりアルミニウム合金などの放熱板になっています。

初代の「だいち」は2006年(平成18)1月24日、種子島宇宙センター(鹿児島県南種子町)からH-Ⅱロケット8号機によって打ち上げられました。軌道の高度は690キロメートル、周期99分、地球の赤道面と衛星の軌道面のなす傾斜角は98°です。H-Ⅱロケットは宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構JAXA)が10年間の歳月をかけ開発した国産ロケットです。その後、改良されH-ⅡAとH-ⅡBが開発され、日本の基幹ロケットになっています。H-Ⅱは2段式で第1段エンジンと第2段エンジンを搭載し全長50メートル、直径4メートル、質量は260トンあります。衛星の打上げ能力は静止軌道で4トン、低軌道では10トンになっています。衛星(ペイロード)は2段目のエンジンの先端に装着され、衛星フェアリング(Payload fairing)といわれるアルミニウム合金の流線型円筒で覆われます。大気圏離脱後にロケット本体と固定されていたボルトの内部に仕込まれた微小火薬が爆発し、フェアリングは分離され衛星は宇宙空間に放出されます。このあと衛星はスイングバイという天体の引力と公転運動を利用する技術によって徐々に運動方向を変更し、所定の軌道に載ります。かつて初期の衛星技術では衛星自体がもつアポジーモーターといわれる小型エンジンによって軌道に載せていました。

衛星に必要な制御、通信の電源は太陽電池をつかいますが「だいち」の場合はカヌーをこぐ「かい」のような形状をしており、太陽電池パドルといいます。全長22メートルあり、この状態のままフェアリングのなかには収容できないため、折りたたんだ展開式にして衛星軌道に載ってから徐々に拡げます。

「だいち」は地震や津波、台風などの災害状況の観測のほか、森林監視や自然環境の保全、農業分野での活用、二万五千分一地形図の作成に利用されるなど、幅広い分野で観測データが活用されてきました。2011年(平成23)3月11日の東日本大震災の直後にも、400シーンの異常画像を取得し被害の確認に役立てられました。国土地理院の解析によると石巻市牡鹿半島では、地震発生時に東南東方向に5.3メートルの移動、1.2メートルの沈下があったことがわかりました。しかし同年5月、「だいち(1号)」は電力低下のため運用を終了しました。後継機として「だいち2号」(ALOS-2)が2014年(平成26)に打ち上げられ。ひきつづき広い範囲を観測して災害の情報把握などを行っています。ついで、「だいち3号」は「先進光学衛星」とされ、2023年(令和5)に打ち上げられましたが、ロケット2段目のエンジンが点火せず、破壊指令が出されてロケットとともに消失しました。つぎに、「だいち4号」(ALOS-4)が「先進レーダ衛星」として2024年(令和6)7月に打ち上げられました。だいち4号はJAXAが開発し、三菱電機が設計、製造したものです。観測幅は最大200キロメートル、観測範囲は、だいち2号の4倍になり、地上の物体の大きさを3メートル単位で識別できます。

「みちびき」などのGPS(GNSS)衛星は測位衛星と呼ばれますが、これにたいして「だいち」は地球観測衛星と呼ばれます。またヨーロッパでは2013年に欧州宇宙機関が開発した地球観測衛星「センティネル1A」(Sentinel-1A)が打ち上げられ世界の研究者に活用されています。

航空機搭載合成開口レーダー

情報通信研究機構(本部・小金井市)では2008年(平成20)、あらたな航空機搭載合成開口レーダーPi-SAR2を開発されました。1996年(平成8)に開発された一世代前のシステムにくらべ、機能は格段に向上され30センチメートルの高分解性能があります。Pi-SAR2は9.55または9.65ギガヘルの垂直、水平偏波を送出する2組のスロット導波管からなる主アンテナとべつに、進行方向にたいして垂直な方向を観測するためのクロストラック干渉計のアンテナと車両、船舶などの動体標的を観測するためのアロングトラック干渉計のアンテナの2組の従アンテナで構成されます。主従アンテナはそれぞれ長辺70、短辺40センチメートル程度です。写真は小金井市の情報通信研究機構で展示されている格納容器(ポッド)に格納された主アンテナのモデルで、航空機の底外側に装着して運用されます。


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